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静岡地方裁判所 昭和60年(行ウ)14号 判決 1992年12月24日

静岡県駿東郡清水町徳倉三二番地

原告

畑中良行

右訴訟代理人弁護士

萩原繁之

同県沼津市米山町三番三〇号

被告

沼津税務署長 中村弘

右指定代理人

開山憲一

仲田光雄

佐野武人

原木壽郎

吉田博致

松井運仁

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五九年二月二七日付けで原告に対してなした

(一) 昭和五五年分所得税について、所得金額を五二一万〇、四〇四円とする更正処分のうち一六七万一、三二〇円を超える部分

(二) 昭和五六年分所得税について、所得金額を七三九万二、五〇八円とする更正処分のうち一八三万七、四六九円を超える部分

(三) 昭和五七年分所得税について、所得金額を八三六万八、九二〇円とする更正処分のうち一九五万九、三六七円を超える部分

及び右各年度分についての過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、電気配線工事業を営むかたわら、昭和五七年四月一五日から飲食店(スナック「あすか」)を営んでいたものであるところ、昭和五五ないし五七年度分(以下「本件各年分」という。)所得税につき、別表一ないし三の各確定申告欄記載のとおり申告した。

2  被告は、昭和五九年二月二七日付けで、別表一ないし三の各更正及び賦課決定欄記載のとおり、各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び各過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。また、本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)をした。原告は、本件処分に対し異議申立及び審査請求をしたが、いずれも棄却された。

3  しかし、被告のした本件各更正処分のうち原告の申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分はいずれも違法であるから、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3は争う。

三  被告の主張

1  推計の必要性

原告の申告額が低調と思われたことから、被告所部係官は、昭和五八年七月二七日に原告宅へ赴き、同人の妻である畑中恵美子(以下「恵美子」という。)に所得税の調査を行う旨伝えてから、昭和五九年一月一三日までの間に合計八回臨戸し、留守の時は伝言メモを差し置くなどの手立てを講じたほか、電話連絡を何度となく行い、原告に対して調査の協力を要請したが、原告は、仕事が忙しい、恵美子が持病の喘息のため体調が良くない、同女でなければ帳簿や原始記録などについて不明であるとの理由で、それら帳簿等の提示すらすることなく、調査に応じようとしなかった。しかし、原告が調査に応じられないとして挙げた右理由のうち、仕事が忙しいとの点は、被告は右のとおり約六か月間にわたり原告の都合に合せるように努力していたにもかかわらず、原告がその間一日も都合がつかないということは到底考えられないところであり、仮に、原告主張のとおり仕事に忙しかったとしても、申告納税制度を採るわが国の税制では、税務調査をこの制度の担保としていることからすれば、調査を受けることができないとするには、社会通念上止むを得ないと認められる理由が必要と解すべきであるが、単に仕事が忙しいというだけでは、社会通念上容認される理由とならないというべきである。また、恵美子が喘息により体調が不調であったとの点についてみても、恵美子が昭和五八年一〇月ころから同年一二月ころにおいて気管支喘息を患っていたとしても、その病状は通常の生活には差支えない程度であって、税務調査に応じることは十分可能であったのである。以上によれば、原告の調査拒否の意思は強固であったことは明白である。このように原告の調査協力が得られず、所得を実額で把握することが不可能なため、被告は、やむを得ず、収入金額を実額で把握し、売上原価及び必要経費を推計して、原告の所得金額を算出した。

なお、原告は、異議申立にかかる調査の過程において、被告所部係官に対し、本件各年分にかかる帳簿は一切ないと申立てた上、昭和五七年分の確定申告書に記載した事業所得の金額の算出根拠として「昭和五七年分資産負債調べ」と題する資料(乙第八号証)を提示した。原告は、右資料において、昭和五七年中の資産と負債・資本の各増減によってその年分の利益金額すなわち所得金額を算出している。しかし、この原告の算出方法自体、所得税法が認める推計の方法にほかならないのであるから、原告自身が推計の必要性を認めていたことは明らかである。

2  本件係争各年分の総所得金額及びその算出根拠

(一) 昭和五五年分の総所得金額及びその算出根拠は、別表四のとおりである。そのうち同業者の抽出基準は別表五、一のとおりであり、それに基づく同業者比率表は別表六のとおりである。

(二) 昭和五六年分の総所得金額及びその算出根拠は、別表七のとおりである。同業者の抽出基準は別表五、一のとおりであり、それに基づく同業者比率表は別表八のとおりである。

(三) 昭和五七年分の総所得金額及びその算出根拠は、別表九のとおりである。そのうち、電気配線工事業の総収入金額の内訳は別表一〇のとおりであり、また、同業者(飲食業を含む)の抽出基準は別表五のとおりであり、それに基づく電気配線工事業の同業者比率表は別表一一のとおりである。

3  推計の合理性

(一) 本件各処分に係る推計の基礎事実は、実額で正確に把握し得た総収入金額である。

(二) 推計方法は、同業者比率法であるが、この方法は多くの裁判例において信頼性が高く合理性のある方法と認められているものであって、被告が本件各処分を行うに当たり最適な推計方法を用いたことは明らかである。

(三) 類似同業者の抽出など推計の客観性維持についても、被告は、同業者の類似性を業種・業態の同一性、法人・個人別の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性に十分な配慮をするとともに、申告が確定している青色申告者を抽出対象者とするほか、事業の継続・非継続をも抽出基準に含めるなど、可能な限り資料の正確性に努めた。また、類似同業者の抽出などの手続も、名古屋国税局長から沼津税務署長に対する通達の形式で指示した、いわば上級官庁からの命令で一連の作業がなされたものであることから、恣意的要素の介入する余地は皆無である。

しかも、抽出された同業者の数も、電気配線工事業及び飲食業とも四件であり、同業者間に通常存在する程度の事業条件の差異は、平均値の中に捨象されると判断できるから、類似同業者の抽出件数の点からみても本件処分に係る推計は合理性を有する。

(四) 以上から、被告が行った推計課税は合理性を満たしており、その結果として算出される原告の所得金額は、真実の所得金額に近似する数値と推認できる。

原告は、県建設業許可関係書類から得た資料に基づいて作成されたとする報告書(甲第一九号証の一)により被告の推計の合理性を争うが、右報告書の基となった資料の名称、作成者、作成基準、使用目的及び各金額の記載要領などが全く不明であり、被告の主張額と比較する根拠を持たない。また、類似同業者の抽出地域についても、被告のそれと異なっているから、数額が異なることは当然である。結局、右報告書の数値と被告主張額とを比較して被告の推計の合理性を争うことは失当である。

4  本件各更正処分の適法性

本件各更正処分に係る原告の総所得金額は、被告主張に係る各総所得金額の範囲内であるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

5  本件各過少申告加算税の賦課決定処分の適法性

国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)六五条一項に基づき、本件更正処分により納付すべき税額(同法一一八条三項により一、〇〇〇円未満切り捨て)

昭和五五年分 六〇万六、〇〇〇円

昭和五六年分 一一五万六、〇〇〇円

昭和五七年分 一四四万二、〇〇〇円

に一〇〇分の五の割合を乗じ(同法一一九条四項により一〇〇円未満切り捨て)、それぞれ

昭和五五年分 三万〇、三〇〇円

昭和五六年分 五万七、八〇〇円

昭和五七年分 七万二、一〇〇円

と賦課決定したものであり、いずれも適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1のうち、被告所部係官が昭和五八年七月二七日に原告方へ臨戸したこと、同係官から何度か電話を受けたことは認め、その余は否認する。本件においては推計課税の必要性は存在しない。

(一) 被告所部係官が昭和五八年七月二七日原告方を臨戸した際、原告は不在で恵美子が在宅していたが、恵美子は当時持病の喘息が悪化していて寝込んでいる状態であり、到底応対できる状況ではなく、別の日にしてくれるよう依頼したところ、右係官は調査への協力を要請し、また来る旨述べて帰去した。それ以降、右係官から何度か電話を受けたことはあるが、原告及び恵美子は右係官と会っていない。原告方の経理はすべて恵美子が担当していて原告は全く携わっていなかったところ、当時、恵美子は喘息の症状が重い時期にあり、何度か救急車で病院に運ばれたり、清水町長沢所在の荒医院に約三週間入院し、その後沼津市緑町所在の清水医院に転院して治療を受けるなどしていた。また、原告は当時仕事が忙しい中、人手不足で四苦八苦する状態下にあった。そこで、原告は、同年九月ころ、沼津民主商工会事務局長高山隆二と共に被告税務署を訪れ、平野統括調査官と面接し、清水医院作成の診断書を提出し事情を説明したところ、右平野は一応納得し、病気が治るまで調査を猶予する旨述べた。その後も、恵美子の病状は回復せず、原告は、鈴木係官との電話連絡の際、調査の猶予が不可能であれば、原告の作業現場に赴いてもらうか、夜間に自宅に赴いてもらうかして調査を受けたい旨の提案をしたが、同係官は応じなかった。原告は、同年一二月ころにも、恵美子の診断書を郵送した。その後、原告に対して被告から連絡はなく、昭和五九年二月中旬ころ、原告夫婦が不在の際、被告所部係官が原告方に臨場し、子供から印鑑を強引に借り出し文書に押印した後間もなく、原告は本件更正処分を受けた。

以上のとおり、原告は、妻の病気、経営上の困難など危急の状況下で最大限の誠意を示して税務調査に対応し、調査に応ずる旨を繰返し明らかにしてきているのに対し、被告は、原告の事情を顧慮することなく、一方的に調査非協力と決めつけた。仮に、被告所部係官から時効等の関係で速やかな調査が必要なことの誠意ある説明があれば、原告は、更に譲歩をし、恵美子の症状が改善されなくとも、原告本人が昭和五九年の早い時期に調査に応じる等の対処をし得た。それにもかかわらず、被告担当官は、十分な説明をし、現場への来場要請に応じ、あるいは確実な連絡のため帰宅後の時間帯に連絡するなど、調査のための努力を尽くすことなく安易に推計課税を実施し、修正申告の慫慂のための連絡もすることなく本件処分を行った。

(二) 税務当局は、かねてから民主商工会を敵視し、その組織破壊の方針に基づき、同会員であることを理由に調査の対象とし、取引銀行や取引先を洗い出し、ことさら当該会員の信用を損なう態様の税務調査を行い、推計による過大な更正処分をもって報いることを常としてきた。そして、税務当局は、右方針を具体化するため、同会会員を納税非協力者と位置付けて、一定の調査件数を維持すること、また無予告を含めて二、三回の臨場調査で進展がみられない場合には、独自の調査を行う旨を伝えて、直ちに反面調査に移行することなどの実施の細目を定め、その徹底を図った。

原告に対する本件推計課税も、このような税務当局の民主商工会に対する組織破壊の方針の個別具体化という脈絡で理解されなければならず、本件処分は、憲法三一条の適正手続の保障に違反する。

(三) 質問検査権の行使として行われる税務調査は任意調査であって、調査を受ける納税者の協力を得て行われるものであり、納税者が協力するためには、仕事や社会生活上の計画、予定の調整が不可欠なことはもちろんであるから、事前に通知が必要であることは、社会通念上当然である。税務職員が遵守すべき行動基準とされている「税務運営方針」においても、調査に当たって納税者に対し事前通知を行うべき原則が明示されている。

ところが、本件においては、この事前連絡をすることもなしに、担当官が昭和五八年七月二七日突然来訪しており、これは前記の民主商工会への敵視政策の一環であると推認できる。

(四) 反面調査、銀行調査は補充性を有し、取引先や銀行に当たらなければ調査が完了しない場合に初めて許される。

しかし、税務当局は民主商工会会員に対してはこの補充性の原則を無視して反面調査を進めており、本件でも、原告方の対処に対し、一旦は調査の延期を認めながら、その後何ら原告への連絡や説得をしないまま、一方的に調査非協力と認定し、推計課税を行った。

(五) 以上のとおり、本件推計課税は必要性を全く欠き、違法である。

2(一)  同2(一)のうち、別表四の<1>、<5>及び<6>は認め、<2>ないし<4>及び<7>は否認する。

(二)  同2(二)のうち、別表七の<1>、<5>、<6>、<8>ないし<10>は認め、<2>ないし<4>、<7>及び<11>は否認する。

(三)  同2(三)のうち、別表九の<5>ないし<8>、<10>及び<11>は認め、<1>ないし<4>、<9>及び<12>は否認する。別表一〇のうち、8有限会社加賀山電業社、18ニワハルヨシ、23清水町収入役及び24町立南中学校に対する売上金はない。また、11古郡工業株式会社に対する売上金額は一九万九、二〇〇円である。

3  同4の主張は争う。本件においては推計の合理性も存しない。

(一) 被告は、推計課税のため抽出した同業者がいかなる者であるかについて、再三の求釈明に一切応じないのみならず、抽出条件に該当する対象者たる事業者が全部で何業者あるのか、抽出されたと称する四業者が全部であるか一部であるかすらも、全く明確にしていない。そのため、抽出した同業者の業務形態の特徴や、基準通りに正しく抽出されたかどうかが分からず、右同業者が実在するか捏造されたものかの判断すら不可能な状態であり、しかも、推計の基礎とされた資料は、本件紛争発生後に紛争当事者である被告から提出された資料であるのであるから、被告が恣意的に選択している可能性は払拭できない。推計に合理性があるといえるためには、当該事案において採用された推計方式自体が合理的であることが必要であり、当該納税者の所得を同業者の売買差益率及び一般経費率の平均値により推計して算出したことにつき、ア推計の基礎となる事実を適切に選択し、かつ、イ右事実を的確に把握したということができ、また、ウ右同業者の営業は、右納税者の営業とかなりの類似性を有していることによって、右同業者の売買差益率及び一般経費率は、右納税者のそれと近似性を有するものと推認できる場合でなければならない。しかしながら、被告の推計の方法によっては、アないしウの要件を充たしていると認めることはできず、なかんずくウについては、抽出した同業者の営業と原告の営業との類似性については全く明らかでない。

(二) およそ同じ電気工事業者であって、事業規模が同程度であったとしても、その事業形態が元請け中心か、下請け中心かといった事業形態の相違によって、経費率等は著しく異なってくるところ、原告は、本件当時、現在地における開業から年月を経ておらず、未だ過渡的な経営状況にあり、経営向上のため、人手不足の中、下請け中心に業務を行い、納期に工事を完成させるためには、マージンを全く取らず、場合により赤字覚悟で外注に依頼する、いわゆる「丸投げ」などを多く行っていたのであるから、こうした事業形態を反映して外注費等の比率が非常に高いという特徴を有するのである。原告の主張額による一般経費率が、各年度とも被告の推計主張額による一般経費率よりも相当低くなっていることも、原告の事業形態の特徴に基づくものであり、被告の推計は、こうした特質を全く反映していない。推計課税が合理性を認められるためには、恣意性を排除して、事業規模等において近似する同業者を全て抽出した上で、更に、事業形態の特徴をも適切に考慮し、明らかに事業形態の異なるものについては、明確な基準に基づいて排除する等の方法によって、当該事業者の所得額に近似すると認められる所得額を適切に算出したと認められなければならないが、被告の推計課税は、かかる配慮をしたとは到底認められず、推計の合理性は認められない。

(三) 県建設業許可関係書類から得た資料に基づき作成された報告書(甲第一九号証)に基づいて、被告と同様の手法により、原告の所得の算出を行うと、

昭和五五年について

<2>工事原価の額(工事原価率七五・五パーセント) 二、二二九万六、〇〇〇円

<3>一般経費の額(一般経費率一三・二パーセント) 三八九万八、〇〇〇円

<7>総所得金額 三三三万八、〇〇〇円

昭和五六年について

<2>工事原価の額(工事原価率六九・六パーセント) 三、〇三二万八、〇〇〇円

<3>一般経費の額(一般経費率一八・〇パーセント) 七八四万三、〇〇〇円

<11>総所得金額 五四〇万五、〇〇〇円

昭和五七年について

<1>総収入金額 四、七八三万二、〇〇〇円

<2>工事原価の額(工事原価率六八・二パーセント) 三、二六二万一、〇〇〇円

<3>一般経費の額(一般経費率二〇・五パーセント) 九八〇万五、〇〇〇円

<12>総所得金額 五四〇万六、〇〇〇円

となり、いずれも被告主張額よりはるかに少なく、被告の推計内容が合理的とはいい難い実態が明らかである。被告は、右報告書の信用性を論難するが、同報告書は一般人が自由に閲覧し得る建設業許可関係書類を閲覧して作成されたものであって、抽出した業者もその名称を実名で記したとおり実在が明らかなものであり、また抽出数も被告の抽出業者数よりも多数に上っているのであるから、被告抽出の業者の平均によるよりも、その数値の客観性には信頼性があるといえる。

(四) 以上のとおり、本件更正処分は、推計の合理性を欠く点でも違法である。

4  同5及び6の主張は争う。

五  原告の主張(実額反証)

1  本訴における主要事実は、あくまで真実の所得額であり、いわゆる間接反証について仮に被告主張のように立証責任が転換されると理解したとしても、この点が変わるわけではない。これに反し、仮に推定所得額を主要事実とするならば、真実の所得額と推定所得額という二つの相矛盾する主要事実の存在を認め得る場合が生じ得ることとなり、訴訟法上、真実の所得額は無意味なものとなってしまう。推計課税とは、各種の間接的な資料を用いて、真実の所得額にできるだけ近似した所得額を算定し、これをもって真実の所得額を推認する方法であって、推計所得額は、真実の所得にできるだけ近似した所得額であって、あくまで間接事実である。

したがって、実額主張額が真実の所得額であった場合には、その額は直接に主要事実そのものなのであるから、まさに、それをもって直ちに推計の必要性や合理性がないとして、本件各処分が違法となる。

そして、実額による本件各年分の総所得金額とその算出根拠は、以下のとおりである。

2  昭和五五年分について

<2>工事原価の額 二、四一三万七、四一〇円

材料費 二一三万九、一八〇円

給料賃金 五一九万五、一〇〇円

外注費 一、六八〇万三、一三〇円

<3>一般経費の額 二八八万二、二六八円

租税公課 四、六〇〇円

水道光熱費 七万二、八六八円

旅費交通費 六万二、八五〇円

通信費 一三万七、二五〇円

接待交際費 八四万九、〇九九円

損害保険料 二万五、九五〇円

修繕費 一六万〇、九四〇円

消耗品費 三二万三、〇八四円

福利厚生費 一九万四、四四〇円

ガソリン代 六〇万二、四七七円

組合費 二万九、八〇〇円

地代家賃 六万六、〇〇〇円

減価償却費 三二万一、七一〇円

雑費 三万一、二〇〇円

<4>算出所得金額 二五一万三、二八七円

<7>事業所得金額(総所得金額) 一九六万八、八四六円

(但し、総収入金額、特別経費の額及び事業専従者控除額は被告主張と同額。)

3  昭和五六年分について

<2>工事原価の額 三、六六八万九、九〇一円

材料費 一、〇六四万八、〇八四円

給料賃金 四二九万六、五五〇円

外注費 二、一七四万五、二六七円

<3>一般経費の額 三六九万五、七七一円

租税公課 三万二、五〇〇円

水道光熱費 七万五、六〇〇円

旅費交通費 八万四、一六〇円

通信費 九万七、四二〇円

接待交際費 七九万三、八五九円

損害保険料 九万〇、七二〇円

修繕費 七万六、四八〇円

消耗品費 五四万五、一二八円

福利厚生費 一一万一、五五〇円

ガソリン代 一二一万二、六〇九円

地代家賃 五万〇、〇五〇円

減価償却費 三一万七、五三九円

雑費 二〇万八、一五六円

<4>算出所得金額 三一九万一、二九八円

<7>事業所得金額 二四〇万九、一五九円

<11>総所得金額 二〇九万七、一八八円

(但し、総収入金額、特別経費の額、事業専従者控除額及び譲渡所得の損失金額は被告主張と同額。)

4  昭和五七年分について

<1>総収入金額 四、七八三万二、七〇〇円

<2>工事原価の額 三、六〇三万二、五〇九円

材料費 四四八万七、一九九円

給料賃金 三六八万四、〇五〇円

外注費 二、七八六万一、二六〇円

<3>一般経費の額 八四八万八、二三七円

(八四八万八、一八七円の違算である。)

租税公課 四万七、〇〇〇円

水道光熱費 八万五、三七三円

旅費交通費 一六万六、八四〇円

通信費 一五万五、四七〇円

接待交際費 一五八万六、二五六円

損害保険料 七万三、五六〇円

修繕費 三五万六、一一〇円

消耗品費 一六五万二、二四六円

福利厚生費 七九万二、三五九円

組合費 六万八、二〇〇円

地代家賃 五万〇、〇〇〇円

支払手数料 三二〇万〇、〇〇〇円

車両減価償却費 二四万四、七七三円

雑費 一万〇、〇〇〇円

<12>事業所得金額(総所得金額) 一三九万四、三六二円

(一四九万三、四一二円の違算である。)

(但し、飲食業に係る所得金額のほか、特別経費の額、事業専従者控除額は被告主張と同額。)

5(一)  被告は、原告が日報帳等の原始資料を提出しないことを論難するが、これらの資料は、本訴のような場への提出を予定しない文書であるから、書証として提出するに際しての大きさや判読可能性などの問題や、記載の意味の説明の困難等に鑑み、説明に適した形態にして提出したものであり、それにつき何ら論難されるいわれはない。また、甲第一〇号証の一ないし九は、右日報帳の一部である。

(二)  一般経費につき、零細な事業者においては、事業形態は簡明であり、収入と支出が個別に対応していることはことさら証明をするまでもない。また、原告が任意に自家消費分を減算したとしても、一般経費の実額主張が全体として信頼できなくなるわけではない。

(三)  棚卸金額につき、零細な電気配線工事業者においては、棚卸というほどの材料を持たず、親会社からの発注を受けた後にすぐに必要なだけ材料を仕入れ、かつ仕入先に直接現場に配送させることを日常的に行っているのであるから、棚卸金額はないといって差し支えない。

(四)  買掛金につき、一二月二一日以降同月三一日までの仕入額は、仕入先と確認の上決算したものである。

(五)  外注費につき、現に電気工事を請負っている者からは領収書を受領していたが、現場の応援として手間取りをしている者からは領収書を受けないことが、当時は慣行のようになっていた。

(六)  給料賃金につき、原告が提出した従業員の確定申告書の控えの裏面には、所得の生ずる場所欄に畑中電気と記入されており、被告自身、畑中電気について給与の支払について事前に十分に知り得たはずである。

六  原告の主張(実額反証)に対する被告の反論

1  原告は、いわゆる実額反証が成功すれば、被告が行った推計に基づく本件各処分が当然に違法になる旨主張するが、原処分の段階で推計課税の必要性が認められる以上、訴訟において実額を把握し得る資料が提出されても、推計課税が手続要件を欠き違法になると解すべき理由はないから、実額反証は、推計課税による所得金額の是非を論ずる立証方法たり得ても、推計課税そのものを違法として論ずる手段になり得ない。

2  また原告は、実額反証においては、文字どおり「反証」であるから、裁判所の心証を真偽不明の状態にさせれば足りる旨主張する。しかし、推計課税は、直接資料によらずに、各種の間接的な資料を用いて、真実の所得にできるだけ近似した所得の額を算定し、これをもって真実の所得と認定する方法であり、実額課税と同様に、真実の所得を認定するための一つの方法である。したがって、課税庁において、その主張する推計課税の合理性について立証した場合には、その推計課税によって、真実の所得に近似する所得の存在を主張立証したことになり、他に特段の反証がない限り、これをもって真実の所得であると認定されることになる。他方、実額反証は、右の場合に、直接資料により真実の所得を立証し、右認定を覆すものであって、いわゆる間接反証事項であり、実額反証によって推計課税を争う者は、当然にその実額が存在することを「合理的な疑いをいれない程度」にまで立証しなければならない。更に、実額反証が、直接資料により「真実の所得の額」を立証し、推計課税の合理性を覆すものであることを考慮すると、更に、納税者は、その主張する実額が真実の所得の額に合致することを立証しなければならないというべきである。すなわち、本件において、実額反証を主張する原告は、アその主張する収入及び経費の各金額が存在すること、イその収入金額がすべての取引先からのすべての収入金額であること、ウその経費がその収入と対応するもの(必要経費)であることの三点を立証しなければならない。

3  原告の実額反証についての問題点

(一) 原告は、その主張に係る実額は、原告が記録していた日報帳及び恵美子が記録していたカレンダーの裏面に基づくものである旨主張する。しかし、原告は、これら原始記録を提出せず、専ら右原始記録から転記・引用したとする証明力に劣る二次的な資料を証拠として提出するのみであり、しかも、その不提出の理由は甚だ不自然、不合理であって、原始記録の存在すら極めて疑わしく、仮にそれらが存在したとしても、その信憑性は著しく劣るものというほかはない。

(二) 総収入金額につき、各年分とも被告が反面調査等で把握し得た額の大部分を認めるのみであって、原告が提出した資料(甲第一ないし三号証)によっても、原告主張金額に遠く及ばない。

(三) 一般経費につき、所得税法三七条の必要経費に該当するものであることが明らかでない上、その主張も外注費や自家消費分の減算などの点で変転とし、また、裏付けとして提出した出金伝票の一部についてはその証拠としての利用を放棄する一方で、同様に疑義が存する他の一部については証拠としての利用を維持するなど、原告の一般経費の主張、立証には合理的な根拠が存しない。

(四) 材料費につき、期中支払額と期末買掛金額を加算し期首買掛金額を減算する方法で算出しているが、期首、期末買掛金額を裏付ける的確な資料がないのみならず、原告の事業内容からすれば、期首、期末の材料在庫が全くないとか、期首、期末の棚卸金額が全く同額であるなどということは到底あり得ない。

(五) 外注費につき、原告が証拠として提出したノートや領収書には、その支払原因の記載がなく、また給料明細書には受領印もなく、また、領収書には架空住所のものも含まれているのみならず、何ら資料の存しない分すら存するのであって、到底的確な裏付けがあるとはいえない。現金出納帳(甲第四号証)は、本訴提起後短期間に一括作成されたものであり、実額を裏付ける資料とはなり得ない。

(六) 給料賃金につき、従業員の確定申告書によっては、支払い給料賃金の実額立証となるものでなく、また、現金出納帳にその資料としての信憑性がないことは前記のとおりである。更に、原告は、給与明細書である甲第一一号証の三七及び三八を、第五回口頭弁論期日に提出したが、第九回口頭弁論期日に行われた原本照合時には、右書証の支払年度の記載を変更記入し、先に提出した分と差し替えて提出した(差し替え前のものが乙第四号証の一、二)。このような原告の姿勢は、その実額反証の主張がいかに根拠のない主張であるかを物語るものである。

第三証拠

記録中の証拠目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1及び2の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  推計課税の必要性について

1  被告所部係官が昭和五八年七月二七日原告方を訪問したが、原告が不在であったため恵美子と面接したこと、被告所部係官が原告方に何回か電話をかけたこと、原告が被告税務署を訪れ恵美子の診断書を提出して調査の延期を依頼し、被告所部係官もこれに応じたこと、原告はその後も診断書を郵送して延期方を依頼したことは当事者間に争いがない。

右事実と、証人鈴木昇の証言(以下「鈴木証言」という。)、同証言により真正に成立したと認められる乙第一三、一九号証、成立に争いのない乙第一〇号証の一、乙第一一及び一二号証の各一ないし三、畑中和美作成部分は成立に争いなくその余は鈴木証言により真正に成立したと認められる乙第一四号証を総合すれば、以下の事実が認められ、原告本人の供述及び証人畑中恵美子の証言(以下「恵美子証言」という。)中これに反する部分は、前記証拠に照らし採用できない。

被告上席国税調査官鈴木昇(以下「鈴木係官」という。)は、原告の所得税調査を行うよう上司の指示を受け、昭和五八年七月二七日、原告方に赴いたところ、原告は不在ということで恵美子が応対した。同係官は、本件係争年度分の所得税の調査に応ずるよう求めたが、恵美子は、原告が留守であるため調査に応じられない旨答えたため、同係官は、原告に翌朝電話連絡するよう伝言を依頼して退去した。しかし、翌二八日に原告からの電話はなく、同年八月上旬になって、恵美子から、八、九月は忙しいから一〇月に調査に応じる旨の電話連絡があったため、鈴木係官は、同月一九日、原告方に赴いた。この日も原告は不在であったため、鈴木係官は、恵美子に対し、理由もなく二か月も待てないから早く調査に応ずるよう説得したが、恵美子は応じなかったため、早急に調査日を決めて連絡してもらいたい、調査に応じないと被告独自に調査を進める旨の伝言を依頼して退去した。その後同月二三日ころ、原告から同係官に対し、一〇月まで都合がつかない旨の電話があったため、同係官は、同年九月二〇日、原告方に赴いたが留守であり、同月二九日に赴いた際も子供しかおらず、更に同年一〇月四日に赴いた際も留守で、原告夫婦に会うことができなかったため、同係官は、調査日を指定して翌朝電話連絡をするよう記載したメモを差し置いた。これに応じて、翌日、原告から電話があったが、原告はもう少し待ってくれと言うだけで調査日を指定しなかったため、同係官は、同月一四日ころ、原告の取引先に対して取引照会を発送した。これに対し、同月二一日、原告は民商事務局長と共に被告を訪れて平野統括国税調査官(以下「平野統括官」という。)と面談し、恵美子が気管支喘息で約一か月間の休養を要する旨の診断書を提出して、同年一一月中旬には必ず調査に応ずるので、取引先への照会督促はしないでほしい旨の申し出をしたため、平野統括官及び鈴木係官は右申し出を受入れ、原告からの連絡を待つこととした。ところが、原告から連絡がなく、同年一一月一四日に鈴木係官が原告方へ赴いた際も留守であったため、連絡をほしい旨のメモを差し置いて帰署し、取引先に対する反面調査を再開した。同月末になって、原告から鈴木係官に対し、恵美子が気管支喘息兼虚血性心症により約一か月の休養を要する旨の診断書と、妻の具合が芳しくなく、原告自身も忙しいが、本年中には必ず何とかするので宜しくお願いする旨の手紙が郵送されたものの、その後も原告から連絡がないため、同係官は同年一二月中旬ころ原告方を訪れたが、また留守だったためメモを差し置いて帰署した。更に同月下旬、原告から同係官に対し、前同様の診断書と、仕事の都合上時間が取れないので、来年にしてほしい旨の手紙が郵送された。同係官は、翌昭和五九年一月一三日にも原告方を訪問し、留守のため差し置いたメモにもかかわらず、原告から電話連絡はなかった。そこで、同係官は平野統括官の指示で、前記診断書の期限が切れる同月一八日ころから取引先に対する実地反面調査を実施し、調査結果が同年二月八日ころにまとまったので、それを説明して修正申告を慫慂するため、同月九日に原告方に電話をし、同月一六日には訪問したが、いずれも留守であったため、同係官は、調査結果を知らせるので同月二〇日に出署するよう記載したメモを差し置いて帰署した。しかし、原告は出署も連絡もしなかったため、被告は本件処分をすることとし、同月二七日、右処分通知書が原告の長女に交付されて送達された。

2  原告は、被告所部係官が、原告方を訪れたのは昭和五八年七月二七日だけである旨主張し、原告本人の供述及び恵美子証言には、これに沿う部分が存する。

しかし、鈴木証言及び乙第一九号証(鈴木係官の聴取書)の内容は、明確かつ具体的であって、特に不自然な点はない。原告は、鈴木係官が、各臨戸が午前か午後かすらも記憶していないことや、原告方の郵便受けの形状の記憶が実際のものと異なっていたことが不自然と主張するが、既に長年月を経た時点でそのような記憶がなくとも特に不自然であるとはいえない。更に、鈴木係官が、各臨戸の時間等について記録にとどめておかなかった点も、直ちに前記認定を覆すに足りない。

3  前記乙第一〇号証の一、一一号証の一、一二号証の一によれば、恵美子が、昭和五八年一〇月ころから同年一二月ころに、気管支喘息及び虚血性心疾患を患っていたことが認められるところ、原告は、その病状は税務調査に耐えられない程度に重症であった旨主張し、恵美子証言中には、昭和五八、九年当時、清水医院、岡村記念病院、国立東静病院、沼津夜間救急医療センターなどに頻繁に通院したり、入院したことがあるとする部分がある。しかし、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一五、一七、一八号証によれば、恵美子は、右両年中には、岡村記念病院、国立東静病院及び沼津夜間救急医療センターに、昭和五九年六月以降にそれぞれ一、二回通院したことがあるだけで、入院したことはないことが認められ(乙第一五号証が、岡村記念病院の前身である岡村記念クリニック時代の受診を除外しているとは解されない。)、また、甲第一六号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一六号証によれば、恵美子は、昭和五八年一〇月ころから同年一二月ころまでの間、清水医院に通院していたことは認められるところ、右乙第一六号証によれば、恵美子の診察に当たった清水久明医師は、当時の同女の病状を、「激しい運動など特に無理をしないようにして、通常の生活をしておればよい。」と診断していたことが認められる。これらの事実に照すと、前記恵美子証言は病状を過大に述べるもので採用できない。その他、恵美子の病状に関する原告本人の供述は、具体性に乏しいうえ変遷が著しく、また、甲第一八号証の一は、恵美子自身アレルギー性喘息である旨証言しているにもかかわらず、心因性喘息であることを前提としており、いずれも採用できない。

4  原告は業務多忙を理由に調査を受ける時間的余裕がなかった旨主張するが、数か月にもわたり全く調査に応ずる時間を割くことができないなどということは極めて不自然であって到底採用できず、また恵美子の病状も前記認定のとおりであって、会計担当者として調査に応ずることに支障が出るほどのものではなかったと認められ、これに前記認定の調査の過程を総合すると、原告の調査忌避の意図は明らかであるというべきである。

5  ところで、原告は、税務調査に当たり事前通知が必要であること、反面調査が補充性を有するものであること等を主張し、本件調査はこれらの要請に違反した旨主張するが、調査の方法については税務職員の合理的な裁量に委ねられているというべきであるところ、本件についての前記認定の調査の経過に鑑みれば、税務職員において右合理的裁量の範囲を逸脱したものということはできないから、右主張は採用できない。更に、原告は、原告に対する推計課税が、民主商工会に対する組織破壊の方針に基づくものである旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

6  以上によれば、本件においては、推計課税の必要性が存したものというべきである。

三  推計の合理性について

1  被告は、実額により算出した総収入金額を推計の基礎事実とし、工事原価及び一般経費につき、同業者比率法により推計しているところ、総収入金額のうち、昭和五五、五六年分については当事者間に争いがない。

昭和五七年分の総収入金額のうち、以下の五名に関する分以外の金額については当事者間に争いがない。そして、別表一〇8加賀山電業社に対する売上金については、証人鳥居の証言(以下「鳥居証言」という。)及び同証言により真正に成立したと認められる乙第二三、二四号証によれば、五七万五、二〇〇円と、同表11古郡工業株式会社に対する売上金は、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二一号証によれば二〇万円と、同表18ニワハルヨシに対する売上金は、同証言及び同証言により真正に成立したと認められる乙第二〇号証により五万円と、同表23清水町収入役に対する売上金は、同証言及び同号証により一、四八〇円と、同表24町立南中学校に対する売上金は、同証言及び同証言により真正に成立したと認められる乙第二二号証により一、二〇〇円と、それぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。以上によれば、同年分の原告の総収入金額は別表九の<1>のとおりである。

2  被告が、推計方法として同業者比率法を用いた点は、原告もこれを争っていないから、本件において問題となるのは類似同業者の抽出方法の相当性である(なお、飲食業については、所得金額及びその算定根拠について争いがないから、以下電気配線工事業についてのみ判断する。)。

鳥居証言及び同証言によりいずれも真正に成立したと認められる乙第九号証の一ないし四によれば、被告が、別表六、八及び一一記載の同業者を抽出した経緯は次のとおりであったと認められる。

被告は、名古屋国税局長の一般通達に基づき、沼津税務署管内において電気配線工事業を営む個人的五〇名の中で、本件年分の全部について青色申告書を提出している者を対象とし、その上で、本件年分中継続して電気配線工事業を営み(中途に開廃業、休業又は業態変更をした者や、更正処分に対する不服申立て等により申告額が確定していない者を除く)、かつ、本件年分の各年分の工事収入金額が、いずれも原告のそれの二分の一から二倍以内の範囲内にあるとの基準をすべて満たす者を抽出した。なお、前記の基準にすべて該当したとしても、明らかに事業形態が異なる者があった場合には抽出対象者から除外することになる。以上の結果、右各別表記載のイ、ロ、ハ、ニの四名を抽出した。

3  被告の抽出基準は、まず、申告額の信憑性が高く、事業形態も確認しやすい青色申告者を前提とした上で、業種、事業の継続・非継続の別、個人・法人の別についての同一性、地域、事業規模、事業形態の近似性から、原告との類似性を追求したものであり、また、その抽出数も同業者の個別性を平均化するに足りるものといえ、合理的なものと認められる。

ところで、原告は、右抽出手続について、ア被告の抽出した四名の氏名、住所等につき再三釈明を求めたが、被告はこれに応じなかったこと、イ名古屋国税局長の一般通達の基準に該当する者が、右四名で全部であったのか一部であったのかが明らかでないこと、ウ業務形態の違いから除外するか否かの基準が明らかでないことなどから、被告が恣意的に選択した可能性が払拭できないと主張する。

しかし、アについては、被告が求釈明に応ずることは、被告が職務上知ることのできた秘密を明らかにするものであり、所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条に触れることとなる一方、抽出方法の正確性、合理性は被抽出業者の氏名を明らかにしなければ担保されないものではなく、かつ、原告としても反証の機会はあるのであるから、許されない立証方法とはいえない。また、イ、ウの点は、右通達では、業務形態の近似性の判断基準について直接には明確な基準を示してはいないものの、業務形態の近似性については他の基準とは違って定量化し難いものであるから、被告が採用した明らかに異なるものを除くとの手法はむしろ合理的なものであり、しかも抽出すべき業者の対象を青色申告者に限定していることから業務形態の明らかな相違の把握は比較的容易であることを考慮すれば、これをもって、右抽出方法自体に恣意性が介入する恐れがあるとか、本件における抽出手続において税務当局の恣意が介入したことを窺わせる事情とはいえない。

また、原告は、事業形態が元請け中心か下請け中心かという点を考慮していないので不合理である旨主張する。しかし、原告の本件各年度当時の事業において、元請けと下請けがそれぞれどの程度の割合を占めていたかは明らかでないが、元請け中心か下請け中心かという業態の近似性は、結局のところ事業規模との相関関係が強いものと考えられるから、前示のとおり、事業規模についての近似性を基準とした本件においては、右のような趣旨での業態の近似性を同業者抽出の直接の基準としなかったとしても、そのことをもって推計を不合理ならしめる事情ということはできない。なお、原告が、本件各年度当時、赤字覚悟で外注に依頼するという特異な営業方法を多用していたことを的確に裏付ける資料は何ら存しない。

4  原告は、甲一九号証の一により認められる静岡県土木部の建設業許可関係資料に基づき算出した電気配線工事業者の工事原価率及び一般経費率に照らすと、被告の推計は不合理である旨主張する。しかし、その算定の元となる数値の算出根拠及びその算出方法が明らかでない(同号証によっても一般経費の中に特別経費も含まれている場合があるとされている。)上、類似同業者の抽出地域が被告のそれと異なるものであって、被告の推計の合理性を左右するものではないというべきである。

5  以上によれば、被告の推計には合理性が認められ、それによって算出される原告の電気配線工事業における工事原価及び一般経費の額は、昭和五五年分については別表四<2>、<3>、昭和五六年分については別表七<2>、<3>、昭和五七年分については別表九<2>、<3>のとおりである。そして、電気配線工事業における本件各年分の総収入金額は前示のとおりであり、また、本件各年分の特別経費の額及び事業専従者控除額、昭和五六年分の譲渡所得損失金額、昭和五七年分の飲食業における総収入金額、売上原価の額、一般経費の額についてはいずれも当事者間に争いがない。以上によれば、原告の本件各年分における総所得金額は別表四<7>、同七<11>及び同九<12>のとおりである。

四  原告の実額反証について

1  原告は、本件各年分の総収入金額について、昭和五五年及び昭和五六年分については、被告の主張する収入金額が実額としての総収入金額としても正確なものであり、昭和五七年分については、前記のとおり、原告が主張する収入金額のうち別表一〇の8、11、18、23、24については否認し、その総額は、四、七八三万二、七〇〇円であると主張する(なお、原告の主張中には、被告が主張する本件各年分の総収入金額に異議はない旨の部分が存する。しかし、原告がその後においても実額反証の主張における昭和五七年分の総所得金額の主張を変更することがないことからすると、原告が、被告の主張する昭和五七年分の電気配線工事業による収入金額を認めたものと解することはできない。)。

ところで、実額反証は、被告が推計によって算出した所得金額が真実の所得金額を超えていることを明らかにすることによって、推計による所得金額の合理性を否定しようとするものであるから、それを主張する原告において、収入金額がすべての収入金額であること及び必要経費を主張立証し、右推計による所得金額が実額による所得金額を超えており、これを採用することが不合理であることを明らかにしなければならないと解すべきである。したがって、原告は、総収入金額について、被告が反面調査等によって把握した推計課税の基礎数値としての収入金額を総収入金額として援用するだけでは足りず、それが捕捉洩れのない総収入金額であることを立証しなければならない。何故ならば、推計の基礎数値としての実額による収入金額は、課税庁が反面調査等によって把握できた限りのものに過ぎず、それがすべての収入金額であることまでも意味するものではない上、推計計算の一項目である必要経費の額の実額が推計による必要経費の額を超えることが立証できたとして、これを右のような意味での推計の基礎数値としての収入金額から控除して所得金額を算定してみても、一般的にいって、必要経費と収入金額との間には相関関係があり、必要経費が多額になれば、収入金額も多額になると推認されるというべきであるから、右のように算定された所得金額が、推計により算定された所得金額に比して、より真実の所得金額に近似しているということはできないからである。

そこで原告の総収入金額の主張について検討するに、後記のとおり、原告の実額の主張自体極めて根拠が薄弱である上、昭和五五、五六年分の収入が別表四<1>、同七<1>のとおり存したことは当事者間に争いがないが、原告が、右各年分の収入の領収書控であるとする甲第一号証の一ないし五〇、第二号証の一ないし四九によっても、その主張する右各年分の総収入金額に足りず、他に右各年分の総収入金額が原告主張の額であることを認めるに足りる証拠は存しない。また、昭和五七年分の推計計算の基礎数値としての収入金額は先に認定したとおり別表九<1>のとおりであり、それより少額であるとする原告の総収入金額の主張が理由がないことは明らかである。

以上によれば、原告の実額反証の主張は、その総収入金額についてその立証がない以上、その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきである。

2  仮に、原告の実額反証の主張を、必要経費の実額を立証することにより、被告の推計方法の合理性を争う趣旨であると善解しても、その必要経費と被告が主張する収入金額との対応が明らかではないのみならず、以下に述べるとおり、原告の主張する必要経費の実額自体その根拠が薄弱である上、それを認めるに足りる証拠はなく、到底採用できない。

3  原告は、主張に係る実額の根拠として甲第一ないし一五号証を提出しているところ、そのうち原始記録は、原告の主張によっても甲第一〇号証の一ないし九にすぎず、原告はその余の原始記録を提出しない。

この点につき、原告は、個々の売上や支払を日報帳に、また恵美子はカレンダーの裏面やメモ書きに記載していたが、それらの大きさ、判読可能性の担保などの技術的困難、記載の意味の説明上の困難などから証拠として提出せず、それを正確に転記ないし引用した甲第四ないし六号証を提出した旨主張するが、証明力において二次的資料に格段に優る原始記録を提出しない理由としては明らかに不十分である。また、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第八号証によれば、異議申立段階における被告所部係官の調査において、原告と共に立ち会った者が本件各年分の帳簿はない旨述べたことが認められ、以上によれば、実額主張の根拠とし得るだけの原始記録は存在しないと認めるのが相当である。したがって、原始記録であるカレンダー等を転記して作成したとする右甲号各証の信用性には、基本的に重大な疑問が存するといわなければならない。

4  また、原告の実額主張の金額及びそれを裏付ける証拠との関連性が以下のとおり変遷したことは当裁判所に顕著である。すなわち、原告は、一旦、ア各年分の一般経費中の各科目毎の金額とその算定根拠となる甲第七ないし九号証の各領収書類との関連性を具体的に主張したものの、その後、イ昭和五五及び五六年分につき、右甲号証中に疑念及び不明確があったので、それらを除き明確な証拠に基づいて実額を算出したとして、一般経費中の各科目毎の金額とその算定根拠となる各甲号証との関連性を訂正した。原告は、右アにおいても、甲第七ないし九号証として提出したもののうち三〇〇通以上については一般経費の各科目との関連性を主張しなかったところ、右イにおいては、アで右関連性を主張していなかったもののうち約五〇通を関連性があるとして主張に加え、逆にこれまで関連性があるとしていた約五〇通を関連性がないとして主張から除外した。この主張の変更は、右甲号各証の問題点を指摘した乙第一ないし三号証及び被告の昭和六二年九月四日付け準備書面に応じてなされたものと認められるところ、右主張の変遷には合理的な理由は何ら示されていないのであって、このことは、原告が主張する実額の根拠が薄弱であり、それら証拠が信用性に乏しいものであることを推認させる。

5  原告は、一般経費について、右のとおり主張を変転させ、かつ、主張と証拠との関係を合理的な説明をすることなく変更しているばかりでなく、その一部科目につき、当初は自家消費分を減算して主張していたが、後に、昭和五五、五六年分についてはすべてこれを撤回している。しかしながら、そもそも事業遂行の過程で自家消費分が混入すること自体、原告の会計処理の正確性を疑わしめるものであるが、仮に、金額自体が少額であり、個人営業にあってはそのような事態が生ずることがあり得るとしても、自家消費分であることを裏付ける証拠もなく減算したり、また後に合理的な説明もなく、そのうちの一部の年分に限りそれを撤回することは、その実額主張自体の根拠の薄弱性を示すものといわなければならない。

6  原告は、本件各年分の材料費を、期中支払額と期末買掛金額を加算し期首買掛金額を減算する方法で算定しているが、期首及び期末の棚卸金額については主張、立証していないところ、この点について原告は、零細な電気配線工事業者においては発注後に必要なだけの材料を仕入れ、かつ現場に直接配送させることを日常的に行っているのであり、棚卸金額はないといって差し支えない旨主張する。しかし、仕入れ額と費消額が全く一致することは通常あり得ず、材料の在庫が全くないとは考えられないから、原告の主張は採用できない。

更に、期末買掛金額のうち沼津ミツワ電機株式会社分について、これを裏付ける証拠はない。この点に関し、原告は、甲第一三号証の一及び五ないし七を提出しているが、これらによっては、各年一二月二〇日時点における同社の原告に対する請求金額は判明しても、それ以降同年末までの仕入の有無、金額は不明であり、他にそれを示す証拠はない。原告は、各年一二月二一日以降の仕入額も同年末に確認の上決算しており、その額は仕入先の当社分の得意先台帳に記載されている旨主張するが、それらは提出されていないのであって、他にこれを認めるに足りる証拠はない(甲第一三号証の一は、沼津ミツワ電機株式会社作成の売掛表と思われるが、それによっても各年一二月二一日以降三一日までの仕入額は不明である。)。

したがって、原告の材料費に関する実額主張は失当である。

7  原告は、外注費の証拠として、昭和五五年分については甲第一〇号証の一ないし九のノートと同号証の一一ないし一九外の領収書、昭和五六年分については甲第一一号証の一ないし六四の給料支払明細書と同号証の六五ないし七二外の領収書、昭和五七年分については甲第四号証の一ないし一二の現金出納帳、甲第九号証の領収書、甲第五号証の当座預金勘定帳をそれぞれ提出しているが、そもそも、同一の原因に基づく支払を示す根拠である証拠がこのように多種多様であること自体、原告の会計処理が極めてずさんであったことを示すものに他ならず、それらの信用性を減殺するものということができる。

個別的にみても、成立に争いのない乙第六号証及び同七号証の一によれば、三島市文京町三-二八-四及び長泉町下土狩一三四の一という町名番地は存在しないことが認められるにもかかわらず、昭和五五年分について提出された甲第一〇号証の一一、一五及び一九、昭和五六年分について提出された甲第一一号証の六七、六九、七一及び七二、昭和五七年分について提出された甲第九号証の二の一のロの住所欄には、右町名番地が記載されており、それらが真正に作成されたものであるかについて疑問が残る。

また、甲第一〇号証の一ないし一九には支払原因の記載がなく、また同第一一号証の一ないし六四の給料支払明細書には受領印もないから、それ自体で外注費を支払ったことの根拠としてはいずれも不十分なものである。しかも、成立に争いのない乙第四号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、原告は、その提出に係る甲第一一号証の三七、三八の支払い年度の記載を、一旦証拠として提出した後に、原本照合時までに書き換えたことは明らかであるから、このような資料をもって当該科目の実額を認定することはできないばかりでなく、このような態度は、原告の実額反証の根拠が極めて曖昧であることを示すものといわざるを得ない。

更に、現金出納帳である甲第四号証についてみても、毎日の差引残高の記載がない日が多く、手持現金との照合を行っていたとは到底窺われないことからして信憑性に欠けるといわざるを得ない上、昭和五七年分の帳簿であるにもかかわらず、昭和五八年分の領収書である甲第九号証の二の三のハや、昭和五六年分の領収書である同号証の一二の五のニに対応すると推認できる記載部分があること、筆跡から見ると二人の者が一定期間まとめて記帳したと認められることを併せ考えると、前記のとおり経理事務を担当していた恵美子が喘息を患っていた時期があることを考慮しても、その記載は極めて不自然であり、この現金出納帳は本件が問題となった後に作成されたものと認めるのが相当であって、採用できない。

8  原告は、給料賃金につき、従業員に対する昭和五六年分の給料の支払いは従業員の確定申告書の控である甲第一四号証の一、二によって明らかである旨主張する。しかし、右確定申告書が税務当局に提出されたものの控であることを認めるに足りる証拠はなく、また、それらが雇主の原告の許に保管されていたことの事情も明らかでないことなどの事情に照らすと、これをもって、昭和五六年分の支払い給料額を認めるに足りない。しかも、昭和五七年分については、それを裏付けるとされる甲第四号証が信用できないことは前記のとおりであり、また昭和五五年分についても、甲第一五号証(恵美子作成の報告書)はいかなる資料、根拠に基づいて作成されたものか不明であり、信用できない。

9  以上によれば、原告の実額反証の主張は理由がない(仮に反証で足りるとする原告の主張を前提としても、到底足りないことは明らかであって、被告の推計を覆すものとはいえない。)。

五  結論

以上のとおり、本件各年分の原告の総所得金額は別表四<7>、七<11>及び九<12>のとおりであり、本件各更正処分に係る原告の総所得金額はその範囲内にあるから、本件各更正処分はいずれも適法であり、右更正処分に係る総所得金額の存在を前提になされた本件各過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉原耕平 裁判官 安井省三 裁判官 水野智幸)

別表一

本件課税処分等の経緯(昭和五五年分)

<省略>

別表二

本件課税処分等の経緯(昭和五六年分)

<省略>

別表三

本件課税処分等の経緯(昭和五七年分)

<省略>

別表四

昭和五五年分総所得金額算出表

<省略>

別表五

同業者の抽出基準

一 電気配線工事業

同業者は、次の1ないし3の条件のすべてに該当する者を抽出した。

1 青色申告書を提出している個人事業者である者

ただし、次の各号に該当する者は除く。

イ 年の中途において、開廃業、休業又は業態変更をした者

ロ 更正又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法又は行訴法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立て又は訴訟中の者

2 住所を沼津税務署管内に有している者

3 総収入金額(売上金額)が次のイないしハの範囲内にある者

イ 昭和五五年分は一、四七六万六、四八二円から五、九〇六万五、九三〇円までの者

ロ 昭和五六年分は二、一六二万五、八八五円から八、六五〇万三、五四〇円までの者

ハ 昭和五七年分は二、四二八万三、七八〇円から九、七一三万五、一二二円までの者

二 飲食業(スナック)

同業者は、次の1ないし3の条件のすべてに該当する者を抽出した。

1 青色申告書を提出している個人事業者である者

ただし、次の各号に該当する者とする。

イ 昭和五七年の中途において開業した者がないため、後記3の営業継続者

ロ 前記一・1・ロに該当する者を除いた者

2 住所を沼津市に有している者

3 総収入金額(売上金額)が二九〇万、二一五円から一、一六〇万〇、八六二円までの者

別表六

電気配線工事業の昭和五五年分同業者比率表

<省略>

別表七

昭和五六年分総所得金額算出表

<省略>

別表八

電気配線工事業の昭和五六年分同業者比率表

<省略>

別表九

昭和五七年分総所得金額算出表

<省略>

別表一〇

昭和57年分

電気配線工事業の総収入金額の内訳

<省略>

別表一一

電気配線工事業の昭和五七年分同業者比率表

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